北京への旅
 
 

 ♪は〜るばる来たぜ函だ…あ、間違えた、北京だった。という訳で成田から四時間弱、中国の首都北京にやって来ました。実質滞在日数二日という極めて限られた時間ではありますが、自分が見聞きした北京の様子を少しでも伝える事が出来れば、と思います。
 なお、この記事は自分が感じた中国像を中心に描いている為、必ずしも中国全体がこの記事の内容と全く同じであるとは限らない事を予めお断りしておきます。
 
◆ 交通事情

北京の空港に着いたのは午後九時半(現地時間)を過ぎていたので、その日はバスに乗ってホテルまで直行。さすが「国際空港」と中心部を結ぶ道路だけあって、道路も綺麗に舗装されていて、バスも快調にスピードを上げていく…と思ったが、市の中心部に入るとやたらと車体が揺れる。道路の舗装が剥げているのだ。それも大通りならまだしも、少し横道にそれると結構ひどい。慣れるまでは尻の痛みとの戦いになりそうだ。

 もっとも、道路標識や信号機は日本とそれほど変わらない。「○○まで×km」といった表示は、日本にあったとしても殆ど違和感がない。信号も「停止→赤」「進行→緑」というのも基本的には日本と同じ。ただ、歩行者用の信号が日本のように「緑→緑点滅→赤」ではなく、「緑→数秒間消える→赤」になるのにはビックリした。一瞬「信号が壊れたのか!?」と勘違いしてしまったではないか…。

 中国といえば「(通勤ラッシュ時の)自転車の波」。十二億人を優に超える人口を有する中国の代名詞とも言える風景である。自分もそのように思い込んでいたのだが…実際には殆どそのような光景が見られない(一度だけ、五十人程度の自転車集団が横断歩道を渡っていくのを見た)。後で調べた所、ここ十年間の経済開放政策の結果、自宅と職場の距離が離れ、結果的にバスや電車などの交通機関の利用者が増加し、自転車の利用は減少傾向にあるとのことであった。どうやら暫らくは中国の「代表的風景」を見る機会は減りそうである。

 中国の車は左ハンドルである。当然タクシーもその例に漏れないのだが、日本のタクシーとは異なり、なんと運転席の周りが鉄柵で囲われているのだ。一見すると監獄のようであるが、このような鉄柵は海外では決して珍しい物ではないようだ。もちろん犯罪防止対策のために設置されているのであろうが、これを見るにつけ、日本は何だかんだ言ってまだまだ安全な国なのだな、とつくづく思ったのであった。


 さて、車に乗っていると、急に目の前を突っ切る人や自転車をよくみかける。日本でもよく車が来ない時に横断歩道以外の場所で道をよぎってしまう事があるが、中国では車があふれていてもお構いなしだ。正直危ない。さすがに車がフルスピードで走り抜けるような状態でそのような事をする命知らずはいないようだが(中国は広いので、一人くらいいても良さそうな気がするが)、ある程度車の流れが遅くなると、何処からともなく現れ、車の前を横切っていく。どうやら、横断歩道が少ないため、いちいち遠回りをしてまで横断歩道を利用するのが面倒臭い、というのが原因らしい。このようにしないと街中の移動はかなり大変なのだろうが、いやはや大胆というか何と言うか…。

 中国では地下鉄は「地鉄」と呼ばれる。北京には3路線あり、そのうち1本は環状線である。
基本的なつくりは日本の地下鉄とそれほど変わらない(売店もホームにある!!)。自動券売機のような物はなく、窓口で乗車券を発行してくれるシステムである。日本の田舎の駅窓口で切符を買う時の事を想像してもらえればよい。ただし、乗車券はぺらぺらで、田舎のバスの整理券、といった感じだ。


また、改札はホーム階段の上に係員(おばちゃん。中国では女性の社会進出が結構進んでおり、前出のタクシーの運転手も女性だった)が立って乗車券のチェックをする。乗車券の一部をちぎって入場の印とする。自動改札機などもちろん、ない。また、駅によっては通路で茹でたとうもろこしや雑貨類を売っている事もある。
 車内は日本のそれより多少狭く感じられるものの、車内広告や路線図などはかなり似ている感じがする。ちゃんとテープによる車内放送(英語での案内もある)もしてくれる。


◆ 食事

「中華料理」と聞くと,あのくるくる回るテーブルを想像されるほうが多いだろうが、なんとあれ、日本が元祖であり、それが中国に逆輸入されたものらしい。それはさておき、そのような「回転机」は全ての店にあるわけではない。例えば、「小<口乞>」(飲茶などの軽食を出す店)では、出来上がった状態の料理が置いてあり、その中から食べたい物を指定して持ってきてもらう、という形を採っている事が多い。こう書くと、作り置きを出されるのではないか、と思われる方もいるかもしれないが、自分が食べた限りでは、料理は温かくそのような印象は受けなかった。比較的少ない量だけを作り置きしておいて、なくなる度に追加する、というシステムなのであろう。
 さて、その「大衆軽食屋」で我々が注文したのは野菜入り饅頭(マントウ)、粟粥、ワンタンスープ。早速食べてみる…ん、美味い!!饅頭やワンタンスープはかなりしっかりした味付けで、日本人の口にもよく合う。そして口の中に残った味を粟粥がさっぱりと洗い流してくれるのだ。量もそれなりに多く、朝食としては充分満足できる物であった。それにも関わらず値段はなんと6元(90円)!!しかも一人分ではなく、三人でこの値段だ。改めて中国の物価の安さにビックリである。

 もっとも、その6元の店は外国人観光客がまず来ないのでその値段でやっているのであって、観光客が利用するような店では相当値段は高くなる。実際、自分たちが宿泊したホテルの前の「大衆軽食店」では、二人で34元(510円)もとられた。メニュー数や内容はそれほど変わっていないのにである。これがいわゆる「外国人価格」なのだろうか。

 中国では基本的に料理が食べきれないほど出てくる。まず一皿に盛られる量が相当多い。その上、何故か必要以上に多く品数を頼む。別に中国人がみな大食漢というわけではない。中国人も残す。中国人はどういうわけか「料理を食べきれないほど頼むのは当然」という考え方を持っているらしい。おそらく、けちけちした頼み方をして器量が小さい人間だと見られるのを嫌っているのであろう。その代りに、残った料理は頼めば店側で詰めてくれ、持ち帰ることが出来る。それでも結構な量の料理が残ってしまう。もったいないお化けが出てきそうだ…。

 量が多いのもさることながら、料理がとにかく油っこい(「大衆軽食店」の料理は除く)のが北京料理の特徴だ。
北京は比較的寒冷な気候のため、油をたくさん摂取して寒さに備えよう、という考え方らしい。しかし、その油っこさが普段あっさりしている日本食に慣れた我々を辟易させてくれる。三日も連続で食べると、「もう勘弁してくれ」という気分になる。ある人が「一週間この料理を食べつづけると気が狂う」と言っていたのも納得できる。

ただ、味はなかなかよい。四川料理のような激辛料理はほとんどなく、油さえ気にならなければ日本人好みの味ともいえる。それだけに、あの油っこさが惜しまれる。もっとも、その油っこさこそ中華料理の醍醐味、と云われてしまえばそれまでなのだが…。
なお、いわゆる「ゲテモノ」料理(日本の中華料理屋で出てこないような「蛇」「犬」「猫」など)も置いてあるようなのだが、いかんせんメニューが全く読めないので確認はできなかった。


◆ 言語

 中国語は難しい。まず発音が難しい。例えば「a」(ア)という音も「語尾を上げる」「語尾を下げる」「平坦なまま読む」「下げてから上げて読む」の四種類あり、聞き取る事も話す事もままならない(とは言っても、中国語の勉強は殆どしていなかったので、仮に聞き取れたとしても何を言っているのか全く理解できなかったのだが…)。実際、料理店でためしに「小姐(シャオジュ)「ロ卑」酒(ピージョオ)両瓶(リャンピン)氷的(ピンダ)」(ウェイトレスさん、冷たいビール2本ね)と云ってみたのだが…ウェイトレスさんに「何云っているのこの人?」という顔をされてしまった…とほほ。なお、中国人の言っている事が理解できない時は、「<口斤>不等」(ティンプトン:何を言っているか分からない)」と一言言えば何とかなる…かも。

北京ほどの大都市であれば、日本語が通じなくても英語は通じる、と思っていた。しかし、ホテルなど外国人が数多く訪れる所以外では全くあるいは通じても中学1〜2年生程度のごく簡単な単語しか通じない。よって、市街で買い物などをする時は、通訳可能な人と一緒に行くことになる。

では漢字による筆談はどうか。中国は漢字の国である、よって日本人が漢字で筆談すれば通じる…。しかし、この考え方は甘かった。自分も中国へ行く前は「筆談すれば何とかなるだろう」と思っていたのだが、実際現地で筆談を試みると、殆ど通じない。理由は二つ。中国ではいわゆる「簡体」という漢字を使っており、日本の漢字とは形が異なるという事。さらに同じ漢字でも日本と中国では意味が異なるという事、である。自分の経験から言って、筆談ですぐに互いの意思疎通が出来る確率は20パーセント程度である。ここまで来てしまうと、あとは身振り手振りだけが頼りだ。


◆ トイレ

なぜトイレなどに一項を割くかというと、自分がそういう話が好きなだけであり、それ以上の意味はない。もっとも、中国のトイレの素晴らしさ(?)は紹介する価値があるものと信ずるものである。

 中国のトイレは凄い。何が凄いかというと、「大」をするほうに一切仕切りがないのだ。つまり大をしているところが丸見え。事前に知識として知ってはいたのだが、実際に用を足している姿をモロに見るのはショックだった。もちろん向こうの人たちは慣れているもので、こちらがトイレに入っても何ら驚くことなく、西日を浴びながら悠々と用を足しつづけるのであった…。



なお、自分が見たものは一応洋式便所としての体裁を整えていたが、場所によっては本当に「穴だけ」というトイレもあるようだ。もちろん非水洗…つまり「ボットン式」である(ホテルなどでは大体水洗だが)。また、場所によっては水が凍ってしまう為、冬季には水道管の元栓を締めてしまうところもある。当然手は洗えない。

また、街中では簡易式の公衆便所が設置してあったりする。自分が見たのはなんと天安門広場へといたる地下道の中(大きな道路の下をくぐるような地下道)!!便所の横には係員(?)が立っており、便所を利用する為には5角(7円)を支払わなければならない。紙が必要な時は、係員に申告すればトイレットペーパーの一部を切り取って渡してくれる。しかし、当然のことながらその便所は暗く汚い。暗いのは我慢するにしても、こんなに臭い場所に長時間こもったら卒倒しそうである。こんなものに7円も払わされるのか…。


◆ 偽ブランド

 中国ではいわゆる「パチモノ」…つまりブランド品などの贋物を取り扱う店が数多く存在する。この店、偽ブランド品以外にも、日用雑貨や食料品、貴金属類、衣料品も扱っており、また面積もかなり広く、さながらデパートのようである。自分もここで色々と物色してみたのだが、やはり安い!例えば某ブランドの偽バッグはわずか40元(600円)。財布の類は20元(300円)。品物自体は思った以上にしっかりしており、パッと見ただけではニセモノとは判別できないかもしれない(見る人によっては一瞬にして見抜いてしまうのだろうが)。本物のブランド品も中国で生産している為、品質的にはさほど差が無いらしい。もっとも、日本で売りさばくべく大量に購入しても、恐らく税関で引っ掛かってしまうので、そういうあさましい考えは棄てるように。
基本的に地元の人の為の店らしいので、強引な客引きがほとんどないのがありがたいが、その分中国語以外は通じないので、注意が必要だ。