好きな旅館にはふるさとのなつかしさがある
千代田区の駿河台一丁目一番地に佇む小さなホテル
昭和文豪のお歴々が常宿にしていた山の上ホテルは、明治大学リバティータワーのすぐ隣に位置している。山の上ホテルは今年で記念すべき50周年を迎えたとのことから、作家たちに愛されながら、静かに駿河台に時を刻んできたこのホテルを訪れてみることにした。
リバティータワーの右手にある、見慣れた「HILL TOP HOTEL」の看板、その先を少し歩けば、山の上ホテルはすぐ目の前だ。本館と別館を合わせて75部屋とけっして大きなホテルではないが、一歩足を踏み入れると、たちまちクラシックな雰囲気に目を奪われてしまう。三島由紀夫も山の上ホテルを大変好み、「東京の眞中にかういふ静かな宿があるとは思はなかった。設備も清潔を極め、サービスもまだ少し素人っぽい処が実にいい。ねがはくは、ここが有名になりすぎたり、はやりすぎたりしませんやうに」と言葉を残している。(『山の上ホテル物語』より抜粋)
本館ロビー前には、こじんまりとした英国風のカウンターバー「ノンノン」がある。扉を開くと、中は重厚な雰囲気で、しゃれた馬毛のスタンド椅子が9席並び、棚にはびっしり洋酒が並ぶ。カウンター横には、89年パリ万国博覧会のガラス部門でグランプリを受賞したエミール・ガレ(1846〜1904)の壺がさりげなく飾られている。
池波正太郎は、ことのほか山の上ホテルを「気持ちのよい宿」としてその晩年にしばしば利用し、ここでエッセーを書き、画を描き、神田神保町界隈を散策した。そのことは『池波正太郎の銀座日記〔全〕』(新潮文庫)に書かれている。池波正太郎の画がホテルのレストランや喫茶室に飾ってある。(『山の上ホテル物語』より抜粋)
作家に好評なのは、やはり和風の部屋だ。畳つきの部屋から庭つきの部屋まで、その造りは様々だが、共通点は「居心地のよさ」だろう。各客室にはしゃれたデスクが備えつけられている。ここに座れば作家の気分を味わえるかもしれない。
私たちが宿泊したのは4階のデラックスシングル。ちょうど子供の日だったので美味しい柏餅を頂いてしまった。清楚で落ち着いた雰囲気の部屋で、窓の外には木々の間からリバティータワーがそびえたっていた。夜には窓を開けて緑茶を飲んだりもしたが、ほんとうに都会の喧騒を忘れてしまうような静けさだった。
塔最上階には、西洋屋根裏風の部屋、通称「モーツァルトの部屋」がある。扉を開けると階段が続いていて、まるで屋根裏部屋に行くような造りになっている。山の上ホテルで唯一、オーディオセットが備えられた部屋で、壁にはモーツァルトの楽譜(原版の複写)が飾られている。クラシック音楽を聴いてくつろぐのには最高の部屋だろう。
カラリと揚げた江戸前てんぷらと季節の和食
山の上ホテルびいきの宿泊客には、夕方にも楽しみが待っている。そう、山の上ホテル自慢のレストランでの夕食だ。天ぷら「山の上」といえば駿河台では知る人ぞ知る名店。揚げたての醍醐味を味わうカウンター席のほか、テーブル席や座敷も用意されている。本胡麻油でカラリと揚げた天ぷらは文句なしの一級品。「山の上」お勧めの天定食は12,000円。
厳選素材のおいしさをシンプルに味わう鉄板焼
焼きたてのステーキが食べられる「ステーキどころガーデン」も忘れてはならない。上質の肉をステーキ専門のチーフがあなたの目の前で焼き上げてくれるのだ。ランチコースは2,000円、ステーキコースは7,000円から。
別館地下の石焼イタリアン
別館地下には、400万円のピザ石窯を備えたイタリアン・レストランがある。あじわいのある内装で、ピザ石窯が本場の雰囲気を醸しだしている。パスタランチは価格もお手頃なのだとか。
挙式場
中庭には小さなチャペルがあり、緑と柔らかい日差しに包まれながらの教会結婚式を挙げることができる。
山の上ホテルには、ホテルとしては珍しい厳かな神前式結婚式場も備わっている。
山の上ホテルのホームページにアクセスすると「もし、人が他人に与えられる最高のものが誠意と真実であるなら、ホテルがお客様に差し上げられるものもそれ以外にはない筈だと思います」という言葉が画面にうかんでくる。これが山の上ホテルの創業者、吉田俊男の目指したホテルの姿であった。
このホテルには、今もなお、その心配りが生きている。アットホームなサービスが随所に感じられるのだ。ホテルの館内や客室には、「健康を守るホテル」という気配りから、マイナスイオンをたっぷり含んだ空気が流され、心なしか気持ちが安らぐ。また、ルームメイクやレストランの皿洗いなども、全てホテルの社員で賄っているとのこと。どこに行っても、きちんと礼儀正しく接してくれる従業員の姿にも、好感のもてるホテルであった。
慌ただしく車が行き交う東京の真中で、仕事に疲れ、ふと心を落ち着かせたいと思ったとき、山の上ホテルに足を運んでみてはいかがだろうか。
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山の上ホテル ホームページ
http://www.yamanoue-hotel.co.jp/
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